相続欠格…判例から見る相続欠格の実際
問題となることが多いのは「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」の場合です。事例を見てみましょう。
■被告が本件第二遺言書を発見したという経緯は極めて不自然、不合理な被告の言動や事象を伴っており、このことは被告自身が右遺言書を偽造したとの事実を無理なく推認させるものといわなければならない。すると、被告は民法891条5号(相続の欠格)に該当する者として、相続人となることはできず、同人の相続財産につき何ら相続権を有しないものというべきである。
(東京地裁判決平成9年2月26日)
■被相続人からその所有不動産全部の遺贈を受ける旨の遺言書を被相続人死亡当時保管していた相続人が、遺留分減殺の請求を受けることをおそれて2年余にわたり他の共同相続人に対し右遺言書の存在を秘匿していた行為は、相続人及び受遺著の欠格事由たる相続に関する遺言書の隠匿にあたる。
(東京高裁判決昭和45年3月17日)
■遺言書の執行を妨げるため保管者から遺言書の交付を受けこれを返還することも検認手続の申立てもしなかったときは、遺言書の隠匿に該当する。
(千葉地裁八日市場支部判決平成11年2月17日)
■相続に関する被相続人の遺言書がその方式を欠くために無効である場合又はこれについてされている訂正が方式を欠き無効である場合に、相続人が右方式を具備させて有効な遺言書又はその訂正としての外形を作出する行為は、民法891条5号(相続の欠格)にいう遺言書の偽造又は変造にあたるが、それが遺言者の意思を実現させるためにその形式を整える趣旨でされたにすぎないものであるとき臥右相続人は同号所定の相続欠格者にあたらない。
(最高裁判決昭和56年4月3日)
■遺言書検認の申立てが遅れたのは・法律知識の欠如からであって、全遺産を自己に帰属せしめるべき内容の遺言状を隠して利益を図ろうとするがごとき故意が認められないから、民法965条(遺言の受遺者について相続の欠格を準用する規定)により準用される民法891条5号(相続の欠格)の遺言書の隠匿者として受遺著たる欠格事由がある場合には該当しない。
(東京地裁判決昭和41年12月17日)
■相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は民法89條5号所定の相続欠格者に当たらない。
(最高裁判決平成9年1月28日)
■相続人が、被相続人から遺言書を受領して金庫内に保管し、被相続人の死後約10年を経過するまでその検認の手続をしなかったとしても、相続上不当な利益を得る目的に出たものとはいえないときは、同相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者に該当しない。
(大阪高裁判決平成13年2月27日)