不倫相手が生命保険金受取人…公序良俗で無効
A夫は、仕事一筋・真面目で子煩悩の夫で、ゴルフを趣味としていたが、社交ダンスを始めるようになった。……そしてダンス教室においてA夫はB子と交際するようになり、A夫の妻に対しても公然と交際するようになった。……A夫はアパートを借りて住み、B子も家を出て同棲するようになった。
‥‥東京地裁判決文から
ダブル不倫は、進行します。A夫は、〈離婚後にB子と結婚する〉と説明して、B子が受取人の生命保険契約をしました。その翌年、ダブル不倫は解消し、二人とも各家庭に戻ります。しかし、A夫の生命保険契約は、B子が受取人のままです。
さらに6年後、A夫が死亡しました。契約では…「死亡保険金」は、A夫の妻子ではなく、B子に支払われます。A夫の妻は、〈保険金をよこせ〜〉と、訴えます。
無効!
判決により…〈この生命保険契約は不倫関係の維持が目的であり、不倫相手を生命保険金の受取人とするのは公序良俗に反する〉とされ、契約は無効になりました。「死亡保険金」は、B子ではなく、A夫の妻子に支払われます。
‥‥保険契約者が不倫相手を保険契約の受取人に指定したことは不倫関係の維持継続を目的としたものであり、また、その保険金は受取人の生活を保全する役割を果たすものでもない。よって、保険契約中、受取人指定部分は公序良俗に反し無効である。したがって、受取人は保険契約者自身と解釈されるから、保険契約者の死亡により、保険金支払請求権は保険契約者の相続人である原告らに帰属する。‥‥東京地裁判決・平成8年7月30日
遺贈なら?!
遺言により、不倫相手に財産を遺贈する場合…遺言の目的が、不倫相手との関係維持継続であれば無効、不倫相手の生活維持であれば有効になります。本来の相続人の生活基盤を脅かさないのであれば、公序良俗に反しないとされています。
‥‥妻子のある男性がいわば半同棲の関係にある女性に対し遺産の三分の一を包括遺贈した場合であっても、右遺贈が、妻との婚姻の実体をある程度失った状態のもとで右の関係が約六年間継続したのちに、不倫な関係の維持継続を目的とせず、専ら同女の生活を保全するためにされたものであり、当該遺言において相続人である妻子も遺産の各三分の一を取得するものとされていて、右遺贈により相続人の生活の基盤が脅かされるものとはいえないなど判示の事情があるときは、右遺贈は公序良俗に反するものとはいえない‥‥最高裁・昭和61年11月20日
保険証券vs自筆念書
生命保険は、遺言とは異なります。商法上、誰を受取人にするかは、保険料を払い込む契約者の自由なのですが…。
C氏は、金融業者に3,000万円の借金があります。そして、内縁の妻を受取人とする、3,000万円の生命保険契約があります。
C氏は…〈私が死亡した場合に保険金を受け取ってください〉‥と記入し、自ら署名捺印した念書と保険証券を、金融業者に渡しました。しかし、《死亡保険金受取人変更》の手続きは、していません。その翌年、C氏は死亡します。
内縁の妻は、保険証券を再発行して「死亡保険金」を請求し、3,000万円を受取りました。そのうち700万円は、自分の借金返済等に使ってしまいます。
契約者の意思優位
さて、金融業者は…内縁の妻に、〈自分が受取人だから保険金を渡せ〜〉‥と、請求します。そして、裁判になりました。
保険証券に記載されている「保険金受取人」は、内妻です。しかし、念書では金融業者なのです。果たして「死亡保険金」は、どちらのものか…最高裁まで、もつれこみました。
判決は、金融業者の勝利です。〈受取人の変更は、保険契約者の一方的意思表示のみで効力をもち、保険会社への通知は必要ない〉‥というわけです。
念書で受取人変更!?
第三者を受取人にする生命保険の契約は、手続きが困難です。しかし、このような念書によって、実質的に可能なのです。
‥‥保険契約者が保険金受取人を変更する権利を留保する場合において、保険契約者がする保険金を変更する旨の意思表示は、保険契約者の一方的意思表示によってその効力を生ずるものであり、また、意思表示の相手方は必ずしも保険者(保険会社)であることを要せず、新旧保険金のいずれに対してもよく、この場合には、保険者への通知を必要とせず、右意思表示によって、直ちに保険金受取人の効力が生じるものと解すのが相当である‥‥最高裁判決・昭和62年10月29日