賃借権(事実婚)

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事実婚の配偶者はアパートに住み続けられるか


 婚姻関係にある夫婦がアパート等の借家に居住していて、夫がその賃貸借契約の借主である場合に、夫が亡くなっても妻は借家権を当然に相続しすから、そこに住み続けることができます。

 しかし婚姻をしていない妻、つまり事実婚の妻には相続権はありませんから、夫が死亡したときにその借家権を相続することができないのでそこに住み続ける権利を確保できません。

 そこで昭和41年に借家法が改正されて、借家人に相続人がいない場合で、その借家人が亡くなり、事実婚の配偶者および事実上の養子が残されたときには、借家権が承継できることになっています。


(居住用建物の賃貸借の承継)第36条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後1月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。



 しかし子や婚姻関係のある配偶者そして兄弟姉妹等の等の相続人がいた場合には、この規定を適用することができません。

 しかし、相続人がいる場合には借家権は他の相続人に相続されてしまいます。事実婚の配偶者は法律での保護規定はこれ以上はありませんが、次のような最高裁判決があります。

「家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない。」
(最高裁判決昭和42年2月21日)



 なおこの判例は、内縁の妻が他の相続人とともに居住を続けていても大家側に何の不利益がない場合です。内縁の妻が単独で居住していた場合とは異なりますので、そのときにどうなるかは分かりません。

 ただ、内縁の妻は内縁夫の借家権を引き継ぐことはできないとしても、内縁夫の相続人が借家権を引き継いだとして自らが居住することはできるかもしれません。借地借家法36条のように当然の権利とは言えないのです。

「内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合において、右相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、右相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ、独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等原判決認定の事情があるときは、右請求は、権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである。」
(最高裁判決昭和39年10月13日)



 死亡した内縁の夫の持ち家に内縁の妻が生活していて、相続人からの明け渡し請求がされた場合です。前段のように特別の事情があった場合ですが、このような場合には権利濫用とされることがあります。

「内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認される。」
(最高裁判決平成10年2月26日)



これは共有不動産の場合ですが、単独での使用継続する事を認め、内縁の妻を保護しました。ただし不動産そのものが共有です。共有財産の場合には他の所有者(他の相続人)からの共有物の分割請求(共有分に応じてその財産をバラバラに分けてしまうこと)があります。

「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。」
(最高裁判決平成8年12月17日)



これは事実婚の夫婦ではありません。相続人の一人が亡くなった被相続人と同居していた場合ですが、この場合には、遺産分割時を終期とする使用貸借契約ですから、遺産分割が成立したら出て行かないといけません。重ねますがこれは事実婚の夫婦の居住ではありません。相続人ですからその物件を相続する可能性もあるからでしょう。
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