連帯保証債務は相続放棄での注意ポイント
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したり、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときは、単純相続したものとされてしまい、相続放棄をすることができなくなります。
■被相続人の衣類でも、一般経済価額を有するものを他人に贈与した時。
(大審判決昭和3年7月3日)
■相続開始後、相続放棄の申述およびその受理前に、相続人が被相続人の有していた債権を取立てて、これを収受領得する行為は、相続財産の一部を処分した場合に該当する。
(最高裁判決昭和37年6月21日)
■少額の債権に過ぎないものでも、それが相続財産である以上は、取立の見込があるかどうかにかかわりなく、これを財産目録に記載しない時は単純承認をしたものとみなされる。
(大審院判決昭和3年7月3日)
■「相続財産」には消極財産(相続債務)も含まれ、限定承認をした相続人が消極財産を悪意で財産目録中に記載しなかつたときにも、単純承認したものとみなされると解するのが相当である。
(最高裁判決昭和61年3月20日)
マイナスの財産で気をつけないといけないものに「保証」があります。連帯保証です。
借用証や金銭消費貸借契約書があるか
借用証が残っていれば分かりやすいのですが、残っているとは限りません。金額が大きな借入れならば不動産などを担保に入れるでしょうから、不動産登記簿謄本に抵当権が設定されていれば借入れがあることが多いでしょう。
債務保証は無いか
他人に連帯保証をしたときに保証書や連帯保証契約書をつくりそれが手元にあればいいのですが、ないことが多いようです。
今でこそ銀行借入のときに銀行は借主に対しても書類の控えを渡しますが、かつては渡してくれませんでした。銀行ですらそうなのですから一般では書類が無いことが多いでしょう。
本人すらも忘れていることが多く、まして相続人では生前に保証人になっていると聞いていない限り、なかなか知ることはできないようです。
これも不動産に抵当権の設定がしてあることがありますので、その時は分かるはずです。
他人の連帯保証人になっていたことを知らずに放棄せずに相続してしまい、何年も経ってから、突然に請求されることがあります。
「連帯債務者の1人が死亡し,その相続人が数人ある場合に,相続人らは,被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解すべきである。」
(最高裁判決昭和34年6月19日)
3ケ月を過ぎるのを待ってから請求に来る金融業者もいます。早く請求すると相続人が放棄してしまうためです。
相続放棄をしなかった理由が相続財産がまったくないとか調査しても分からなかったとかいう理由の場合には例外的に3ケ月を経過しても相続放棄を認める最高裁の判決があります。
ですから救済される可能性もなくはありませんが、「危ない」と思ったならば放棄を検討しましょう。
「3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由がみとめられるときには、相続人が前記の各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当ではないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」
(昭和59年4月27日最高裁判決)
相続の放棄をするとその相続人はいなかったこととして相続人を確定させます。
子が全員相続放棄をすると、子がいなかったものとして相続人を確定させますから、親が相続人になります。親も相続放棄をしなくてはなりません。親も相続放棄をすると、子も親もいないものとして兄弟姉妹が相続人になってしまいます。兄弟姉妹全員があわてて相続放棄をすることになります。
なお相続放棄は厳密には「自己のため相続の開始を知った時から3ケ月以内」です。つまり自分が相続人になったことを知ってから3ケ月以内です。親が相続を放棄する期限は、子が相続放棄をしたと知ったときから3ケ月以内、兄弟姉妹が相続を放棄する期限は、親が相続放棄をしたと知ったときから3ケ月以内となります。